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REPORTS レポート
2023年10月11日

ジェンダーギャップ指数で低迷する日本が世界で貢献できる女性支援の取り組み(2023年10月 JBpress掲載)

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国連とはどのような組織で、どのような形で世界に影響を与えているのか。戦争を止めることのできない国連に存在意義はあるのか。日本は国連にどのように関わるべきなのか──。知っているようであまり知らない、外からは見えにくい国連という組織について、外務省やシンクタンク、国連職員など様々な立場から外交に関わってきた水田愼一氏と、官民のルール形成や人権・サステナビリティの分野で独自のポジションを築いているオウルズコンサルティンググループの羽生田慶介CEOが語り合う対談の第3回。


※2023年10月4日付のJBpressの記事を一部変更して掲載しています。

※肩書は本対談を実施した2023年8月時点。水田氏は外務省、シンクタンクに勤務した後、2011年から2020年まで国連職員としてアフガニスタン、ソマリア、リベリアに勤務。2020年から2023年7月までニューヨークの国連日本政府代表部勤務。2023年9月から再び国連職員としてアフガニスタンで勤務。

「日本では、たいていのことがこの30年で停滞している」

 

羽生田:

最近、国際的なランキングにおける日本の順位が話題になることが増えています。例えば、世界経済フォーラム(WEF)が発表したジェンダーギャップ指数を見ると、日本は146カ国中125位。とりわけ政治分野は低く、146カ国中138位と最下位クラスでした。西アフリカの最貧国として知られるシエラレオネ以下です。もっとも、日本は決して革新的な国ではありませんが、世界の中でもかなり平和な国で、客観的に見て、人権が軽視されているような国ではないように思います。

日本のインテリ層は、こういったグローバルランキングを見て、「日本はここがダメだ」「あそこが弱い」などと批判する風潮がありますが、国際社会から見た印象はいかがでしょうか。本当に日本の状況はまずいのか、それとも過度に批判されているだけなのか、その点はどう思いますか?

水田:

もちろん、日本は平和で住みやすい国ですが、女性の社会進出にフォーカスすれば、やはり遅れていると言わざるを得ないのではないでしょうか。例えば、名前が挙がったシエラレオネは国民の多くが絶対的貧困に置かれている国ですが、女性の政治参加という面では日本よりも進んでいます。シエラレオネに限らず、アフリカの多くの国は女性の議員比率が日本よりも高い。日本と他国を比べることも重要です。でも、それよりも大切なのは、何をもって遅れているのかを考えるときに、それぞれの国が過去の実績と比べて前進しているのかどうかという観点で見ることだと思います。過去からどれだけよくなったのかという視点です。日本には進んでいる部分もあれば、遅れている部分もありますが、たいていのことが、この30年間で停滞しているように感じています。

羽生田:

過去との比較で前進していないということは、つまり遅れている。

水田:

そう思います。では、どういうアプローチで前進させていくかという点ですが、ジェンダーギャップに関して言えば、賛否両論はあると思いますが、クオータ制のような形から入るアプローチが必要だと感じています。

企業や役所で聞いてガクッとする発言

水田:

国連がまさに実践していますが、同じ能力か、すこし能力が劣っているとしても必要とされる要件を満たしている人であれば女性を採用し、昇進させる。そうしていかないと、女性の社会進出はいつまでたっても進みません。でも、日本では役所でも民間企業でも、中堅幹部以上の人から 「この場合は彼の方が仕事ができるよね」「彼女はちょっと厳しいんじゃないか」といった発言が出ることがあるんです。こういう発言を聞くと、本当にガクッとなる。これこそ負の連鎖ではないでしょうか。機会を与えられていないから女性が育たないのであって、機会を若いころからどんどん与えていけば、マネジメントでも活躍する女性は数多く生まれるはずです。それなのに、男性が多く採用され、多数を占めている組織の中で「男性の方が優秀だ」と考えるのは、問題の根本原因から目を背けていると言わざるを得ない。そういう状況を変えるために、英語で言う「アファーマティブアクション(affirmative action)」、つまり性別や人種などを理由に差別を受けている人たちに対する格差是正措置が日本には必要なのではないでしょうか。

羽生田:

過去と比べて前進しているかどうかを評価の指標とする。この視点は重要ですね。私も仕事柄、国際情勢は注視していますが、やはり日本は諸外国と比べて停滞している印象を受けます。

水田:

女性の閣僚数や女性の議員数は、たぶん30年で大きく変わっていないですよね。

羽生田:

もっとも、ジェンダーギャップ指数は世界の中でも相当に遅れていますが、日本における女性の教育水準の高さについては、諸外国から驚きと尊敬の目で見られているという事実もあります。日本として、世界のジェンダーギャップ問題の解決のために貢献できることはあるのでしょうか。

日本であればできるタリバンの説得

水田:

海外に貢献しようという意識は、日本経済が好調だった80年代、あるいは90年代まではまだ残っていたと思います。ところが、日本の停滞が明らかになり、国内の貧困や格差の問題もクローズアップされ始めた結果、海外に目を向ける前に、まず国内の問題をどうにかしなければという流れになってきたのが現状ですよね。でも、国内の課題が山積しているから海外で何もしなくていいということにはなりません。日本は国際社会の一員であり、日本人として海外としてどう関わっていくかという点は、常に考えていかなければならない問題です。個別の国ごとに貢献できることはいろいろとあると思います。例えば、私が次に赴任するアフガニスタンは、女性に対する中等・高等教育をすべて停止してしまいました。現状、アフガニスタンの女子が通えるのは、ほとんどの地域で小学校だけです。でも、タリバンをうまく説得するためには、「男女分離教育なら検討の余地はないか?」という提案を議論するのも一案かもしれません。江戸から明治に移る時に、日本は男女分離教育を実施した歴史があるのですから。不幸にして亡くなられた中村哲医師をはじめ、アフガニスタンで汗を流してきた先達が大勢いらっしゃるので、日本に対する信頼感は強い。うまく話をすれば、じゃあ日本の経験を学ぼうという可能性もあるかもしれない。こういった取り組みを個別の国ごとに進めていけば、世界における日本の信頼感は高まりますし、日本国内の刺激にもなる。もちろん、国連をはじめとした国際機関も女性支援や子どもの支援に力を入れているので、そこで貢献することもできます。

羽生田:

ジェンダーを含めた人権問題は、国際的にも常に議論されている普遍的なテーマです。その中心となっているのはヨーロッパの国々です。ただ、他国に自国の規範を押しつける「ノーマティブパワー(規範力)」に対する懐疑的な見方もあります。歴史を振り返れば、黒人奴隷やアフリカの搾取など、欧米諸国は人権を無視した利己的な行動をとってきました。そんな欧米諸国が人権スコアなどを設定し、各国を評価する現実を水田さんはどのように見ているでしょうか。

「欧米的な人権アプローチに懐疑的な国が増えている」

水田:

自分たちのことを棚に上げているという批判は、確かにその通りかもしれません。ジェンダーに関する理想の到達点を考えたとき、一つのモデルになるのは北欧諸国だと思います。男女共同参画社会が確立しているし、経済的にも性別を問わず、平等に権限が与えられている。ただ、それを押しつけようとすれば、男性だけではなく女性からも反発を招く可能性がある。それぞれの国の環境や経済の発展段階が異なることを考えれば、その国にあった理想を設定し、そのためにどう働きかけるかを考えていくべきです。子育てと一緒で、子どもがやっていることを「ダメだ」「ダメだ」と頭ごなしに否定しても変わりません。相手の国の状況を勘案せずに価値観を押しつけても、世界はいい方向には変わらない。現に、人権に対する世界の意識は変化しています。「欧米的な人権アプローチが本当に正しいのか」と考える国が増えているのです。国連に人権理事会という組織があります。その理事国の中ですら、欧米的な人権アプローチに対するアンチテーゼを掲げる国が出てきています。例えば、アフリカのエリトリアという国があります。ニューヨーク勤務時、エリトリアの国連常駐代表から、「欧米的な人権のアプローチはそのままではおかしい。それを変えるために、自分たちは人権理事会の理事国として頑張りたい」という話を聞きました。このように人権理事会であっても、欧米的な人権概念やアプローチをそのまま支持しない国は増えています。そのために、人権にまつわる主要な要素に変更が加えられることが必ずしも正しいとは思いませんが、こういった動きが現実にある。

羽生田:

人権問題は、政治・外交の場だけでなく、サプライチェーンなどビジネスの現場でも直面する問題です。

水田:

他によく言われているのは、人権に関して、西側諸国が経済や援助にからめて押しつけようとしている点です。欧米諸国は、人権状況が改善しないと経済制裁を課すぞ、援助しないぞというアプローチをとることが往々にしてありますが、それが正しいのかという批判です。「衣食足りて礼節を知る」という言葉があるように、経済的に安定しなければ人権問題にも取り組めないという指摘には一定の理があります。欧米人は人権問題を無視したままで経済的発展を後押ししたところで、その国が行動を変えるわけではないと考えている部分がありますので、そこは堂々巡りですが、途上国の人々も奴隷労働のような仕事にはつきたくないだろうし、最低限の生活はしたい。それを実現するために、どういうアプローチが必要なのかという点は改めて考えていく必要があると思います。

株式会社オウルズコンサルティンググループ
代表取締役CEO
羽生田 慶介

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