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REPORTS レポート
2023年10月2日

「国連の存在意義って?!」そう思っている 日本人に知ってほしい国連の役割(2023年9月 JBpress掲載)

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アフガニスタンにおけるタリバン政権の復権やニジェールの軍事クーデター、そして泥沼化するロシアによるウクライナ侵攻。日々様相を変える国際社会は、常に課題を抱える火薬庫のようなものだ。その中で、混沌とした国際社会の調整を図るべく、今日も様々な議論が交わされている場がある。国際連合、すなわち国連である。国連とはどのような組織で、どのような形で世界に影響を与えているのか。戦争を止めることのできない国連に存在意義はあるのか。日本は国連にどのように関わるべきなのか──。

知っているようであまり知らない、外からは見えにくい国連という組織について、外務省やシンクタンク、国連職員など様々な立場から国連に関わってきた水田愼一氏と、官民のルール形成や人権・サステナビリティの分野で独自のポジションを築いている弊社代表取締役CEO 羽生田慶介が語り合う対談の第1回。

※2023年9月22日付のJBpressの記事を一部変更して掲載しています。

肩書は本対談を実施した2023年8月時点。水田氏は外務省、シンクタンクに勤務した後、2011年から2020年まで国連職員としてアフガニスタン、ソマリア、リベリアに勤務。2020年から2023年7月までニューヨークの国連日本政府代表部勤務。2023年9月から再び国連職員としてアフガニスタンで勤務。

羽生田:

日本では、国連に対するメディアの理解が不足していることもあり、国連の意義や役割が客観的に伝わっていないように感じています。テレビや新聞を見ても、国連よりもG7の方が多く報道されており、国連よりもG7を重視しているような印象を受けます。長年、国連に関わっている水田さんに改めてお聞きしますが、日本人にとって、国連とはどういう存在だと思いますか。

水田氏:

確かに、国連の役割や重要性があまり理解されていないと感じる瞬間はあります。その背景には、報道の問題もあるのかもしれません。ただ、「国連と日本人」と言われると、日本人が国連に対して過剰な期待を抱いているのではないかということを感じます。例えば、国連の重要性に関するアンケートを行うと、日本人は「国連に好感が持てる」と答える人の割合がほかの国と比べて低い。それでは、なぜ好感度が低いのか。そこには、日本人が国連に対して抱いている感情があると感じています。

羽生田:

どういう感情なのでしょうか。

水田氏:

日本人の中には、国連に対する一種の憧れと期待、それが裏切られたことに対する幻滅のような感情があるのではないでしょうか。国連という理想的な存在があって、その組織が自分たちに何かをしてくれることを期待しているけども、直接的にはあまり役に立ってない。そんな捉え方をしている人が多いように感じています。それが、「国連にあまり好感が持てない」というデータにもつながっているのかな、と。

国際公共財を提供するという国連の役割

羽生田:

確かに、国連という存在に過剰な期待を持っている面はありますね。「国連はなんでロシアの暴挙を止められないんだ」「常任理事国のロシアや中国が拒否権を持っている以上、何も決められない」と怒る背景には、国際機関である国連であれば、世界平和を実現してくれるんじゃないかというような淡い期待がある。

水田:

国連を世界政府のように捉える人もいますが、そういう認識は正しくありません。

国際社会の中に、日本政府のような統治機構があるわけではない。それでは国連は何かというと、一国や民間ではできない国際公共財を提供する機関です。国際公共財は、大別すると、無形のものと有形のものに分けることができます。

無形の国際公共財とは、ルールや価値観のようなものです。人間は、共通の価値を認識することで互いに協力し合うことができる。そういった価値観をすりあわせ、協力の場をつくり出すことが国連の役割の一つです。こういった共通の価値とともに、それを実現するための国際ルールをつくる舞台を提供するのも、国連の仕事です。

もう一つの有形の国際公共財は、人道援助や開発援助に代表される、そのままの状態にしておくと提供されないものをしかるべきところに届けるという機能のことです。普段の生活の中で私たちが公共財の存在を感じることはあまりありませんが、地球レベルの課題を解決するための場として国連は機能しています。例えば、欧州では難民への対応は大きな課題です。難民が押し寄せたときに流入を防ぐのではなく、難民を生み出さない方法を考えるということが根本的な課題解決です。そのための包括的な解決策は、国連のような場でなければ議論できません。また、全世界で食料価格や燃料価格が高騰していますが、食料価格であれば、ロシアによるウクライナ侵攻が大きな影響を与えている。そういう負の影響を緩和するために主体的に行動できるのは、おそらく国連しかいない。このように、国や民間にはできない有形無形の公共財を提供する機能として、国連は存在しているということを理解してほしいです。

羽生田:

そもそもどこかの国の利益を代弁するような存在ではない、ということですね。

日本政府が分かっていない国連の“使い方”

水田:

そうです。むしろ安全保障理事会(安保理)で意思決定に関わっている国々は、いかに自国の色を消すかに細心の注意を払っています。国連の安保理は5カ国の常任理事国(アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国)と、2年の任期で選ばれる非常任理事国の10カ国で構成されています。日本は非常任理事国に12回任命されており、これは世界最多です。それぞれの理事国は1票の投票権を持っており、手続き事項に関する決議では15理事国のうち9カ国の賛成が必要です。常任理事国は拒否権を持っているので、実質的には常任理事国5カ国の同意投票を含む9理事国の賛成を得なければならないということです。安保理を構成している国々、特に拒否権を持っている常任理事国はルール形成などの面で有利な立場にあります。ただ、それを前面に出して行動すると「それは、あなたの国のためでしょう」「我田引水ですよね」と批判されるので、「自国のためではなく、世界のために必要なのだ」と他の国々に理解してもらうために腐心しています。もちろん、国連のドライビングシートに座っているメリットも自覚しているので、国連を自国のためにどう活かしていくかということも考えていますが、対外的な“見え方”に細心の注意を払っている。

それに対して、日本政府は常に安保理にいるわけではないからなのか、国連決議の際に、日本の利益を前面に押し出すようなところがあります。対外的な姿勢を気にせず、「日本のためになっているかどうか」を判断基準にしている。それは素直なぐらいに。これは開発援助の現場でもそうです。進行中の個別プロジェクトに対して、日本にとってどういう利益があるのかと報告を求める国会議員もいるくらいですから。国益を問うことは何も悪いことではありません。常任理事国も自国の利益のために国連をうまく使おうとしています。「みんなのため」と言いながら自分の利益につなげることを外交として行っている。それでも、慎重に根回しを進めながら仲間を増やそうとしている中で、自国の国益ばかりを声高に叫んでもなかなか理解はされません。日本政府に期待されるのは、世界のためにどのようなことができるのかというビジョンを打ち出し、その後、細部を詰めていくという動きです。でも、今の日本は細かい部分、すなわち日本のためになるかどうかということばかりに注目して、世界の国々が賛同するような大きなビジョンを提示できていません。

国連の仕事が取れない日本企業

羽生田:

細かなところばかりを見て、全体の大きな戦略がないというのは日本企業にも通じるところがありますね。

水田:

そうですね。国連はさまざまな製品やサービスを調達しているので、さまざまな企業が参入しようとしています。当然、日本企業も自社の製品やサービスを売り込みにきますが、なかなか他国の競合には勝てていません。その理由はさまざまだと思いますが、日本的なビジネスの進め方もあるように思います。例えば、技術力の高さをびっしりまとめてプレゼンするのが日本企業のセオリーですが、それで何が実現できるのかという包括的なビジョンが不明確なことが多い。日本企業は個別の技術力や強みを売り込むことに注力しがちなんですね。でも、いくら技術力が高く、高品質だと言っても、その技術を活用してどんな世界を実現したいのかという部分が曖昧なままでは、海外のビジネスパーソンには響きません。目指すべきビジョンを提示して、そのためにこの技術が活かせるという提案をしなければならない。国連のビジネスの場で日本企業の名前が出る機会が少ないのは、こういう事情があるように感じます。

羽生田:

先ほど国際公共財のお話がありました。自国の公共投資などでも経済合理性が問われる時代ですが、国連のプロジェクトに経済合理性を問うべきなのでしょうか。

第2回「安保理改革の実現は困難も、常任理事国の拒否権行使に制限をかけることは可能」に続く

株式会社オウルズコンサルティンググループ
代表取締役CEO
羽生田 慶介

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