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2023年5月8日

岸田首相のアフリカ歴訪、この30年のカギを握るアフリカで日本は何ができるか(2023年4月 JBpress掲載)

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欧米中が勢力を争う「最後のフロンティア」で求められる日本的支援

2050年には世界の人口の4分の1を占めると予測されているアフリカ。2019年に発足したAfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)にも、エリトリアを除く54カ国が署名しており、2021年に一部運用が始まっている。約13億人の人口と約3.4兆米ドルのGDPを抱える単一の大陸市場創設が目標だ。もっとも、歴史的に欧州の影響力が残るアフリカだが、昨今は「一帯一路」を掲げる中国が存在感を高めている。その中国を警戒する米国も、アフリカに対する支援を強化しつつある。これからの世界のカギを握るアフリカに対して、欧中米が水面下でしのぎを削っているのが現状である。

この中で、「ASEANの奇跡」を演出した日本はどのようにアフリカに向き合うべきなのか。岸田首相の歴訪を前に、日本がとるべき支援やアフリカを巡る各国の動きを分析する。第1回目の今回は、欧州とも中国とも米国とも違う日本型支援の可能性について解説する。

※2023年4月28日付のJBpressの記事を一部変更して掲載しています。

中国とロシアを念頭に置いたアフリカ歴訪

明るい陽の光と、青々とした緑が輝く季節。毎年4月末から始まる大型連休に心躍らせている人も多いことだろう。先日、その大型連休に合わせて岸田首相がアフリカを訪問すると報じられた。お膝元の広島で開催される5月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)を前に、エジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークの4カ国を歴訪する。南半球を中心とする新興国や途上国、いわゆる「グローバルサウス」との連携強化が目的だ。このタイミングで日本がアフリカとの関係強化を図ろうとする背景の一つに、アフリカで影響力を高める中国の存在がある。

中国は近年、広域経済圏構想「一帯一路」を通じて、インフラプロジェクトを中心に、アフリカに多額の資金を投じている。アフリカ諸国は欧州列強の植民地だったため、いまだにヨーロッパの影響が色濃く残るが、2020年には世界全体の対アフリカ投資の11%を中国が占めるなど、中国の存在感は増す一方だ。

中国のアフリカ進出の狙いは、豊富な資源の確保とアフリカにおける親中的な世論の形成だと言われる。アフリカ諸国の対中債務の増加とそれに伴う「債務の罠」に対する懸念は高まるものの、これまでに中国がアフリカにおいて、強固な存在感を築いたことは否定できない。また、ウクライナに対する軍事侵攻を続けるロシアの存在も見過ごせない。

日本の「オファー型」支援は機能するか

アフリカには民主的な規範を受け入れる国も少なくないが、欧米の価値観を押しつけられることに抵抗がある上に、小麦や肥料の輸入をロシアに依存する国も多く、2割超の国が「ロシア寄り」との分析もある。事実、ロシアによるウクライナ4州併合を無効とする2022年3月と10月の双方の国連決議において、約半数のアフリカ諸国が棄権ないし不参加を選択したことは話題になった。岸田首相の歴訪は、アフリカ諸国への影響力を増す中国やロシアを念頭に置いたものと位置付けることができる。

こういった安全保障における連携強化にも関連するが、今回の首相歴訪の目的には、アフリカ諸国に対する経済支援もある。その中で、新しい支援の形として注目を集めるのは、いわゆる「オファー型」協力だ。「オファー型」支援の特徴は、相手国の要請を待たずに日本から提案する点にある。外務省は日本の得意分野で効率的に支援できるほか、日本の外交目的に沿った支援に注力できる点に期待しているとされる。今年6月に8年ぶりにODA大綱が改正されるが、「オファー型」協力の強化はその目玉とされる。今回のアフリカ歴訪で、「オファー型」の支援策について具体的な言及があるかは注目すべきポイントだ。

もちろん、支援内容を日本から提案すると言っても、アフリカ側が求めていない支援を提案しても意味がない。それでは、支援の受け手であるアフリカには、どのような支援が刺さるのだろうか。

世界が認めた日本の「ASEAN型支援」とは

アフリカが日本に求める支援の中には、従来型のODAによるインフラ投資だけでなく、自動車業界をはじめとした製造業の進出も含まれるに違いない。製造業の基盤の少ないアフリカ諸国が、中間層の創出につながる製造業の育成を日本に期待するのは想像に難くないからだ。日本は、東南アジア諸国連合(ASEAN)に対する製造業の進出という途上国・新興国支援の実績がある。現に、日本政府によるODAを通じたインフラ整備とともに、多額の労働資本を活用する日本の製造業が1990年代以降、特に数多く進出した。

日系製造業がアジアに展開する場合、低い労働コストを求めて製造拠点を置くケースが多い。日本の本社から高度な技術・知識を必要とするような基幹部品を輸出し、労働コストが低い新興国で組立てなどの労働集約的作業を行う垂直的な生産分業だ。完成した製品は、もし現地に十分な市場がなければ、日本や欧米などに輸出することになる。

このような製造拠点の構築がASEANの経済発展を後押ししたが、その際に重要だったのは、日系企業が現地企業や人材を育成したことだ。

海外生産を進める場合、部材や素材を現地調達し、労働生産性を高めなければコスト競争力を得られない。そのため、自動車メーカーや部品メーカーは長い時間をかけてASEANの現地企業を支援し、人材を育成した。結果、域内投資と人的資本の伸びがASEANの経済成長のエンジンとなった。また、ASEAN諸国が地理的に近いことも日系企業進出の追い風になった。

例えば、自動車産業では、機械部品や内外装メーカーなどの第1次サプライヤーに加え、プレスや金型メーカーなどの第2次サプライヤー、製造機械のメーカーやメンテナンスサービスなどの第3次サプライヤーがタイに進出した。その後も、タイの集積地から周辺国(ラオス、カンボジア、ミャンマー)へ工程間分業が拡大する動きが進んだ。タイやインドネシアに製造拠点をつくり、その点を線でつなぐことで、東南アジア全体をカバーする効率的なサプライチェーンをつくることができたのだ。

アフリカに対するASEAN型支援の限界

このように、ASEANの発展で日本の果たした役割は大きいが、それは旗を振る政府の後に企業が続いたことで成し遂げられたものだ。東南アジアの発展を横目で見ていたアフリカ諸国も同じような展開を期待しているはずだが、同じことがアフリカで可能なのか。ここで、ASEANとアフリカの違いを考えてみよう。

まず、アフリカはASEANと比べてはるかに広大だという点が挙げられる。アフリカの主要国には南アフリカやケニア、ナイジェリア、エジプトなどがあるが、これらの国はかなり離れたところに位置している。ASEANの場合、拠点と拠点をつなぐことで効率的なサプライチェーン網を構築することができたが、主要国の地理的な遠さを勘案すると、インフラが未整備な点を差し引いても、効率的なサプライチェーンを構築することは困難だろう。また、現地に製造業の基盤が乏しいことも大きな違いだ。

先述したように、ASEANの場合は進出した日系製造業が現地のサプライヤーや人材を育成した。もちろん、当時のASEAN諸国においても製造業の基盤は乏しかったが、ASEANの場合は白物家電や黒物家電といった組み立てや加工が比較的容易な業界が先に進出し、後に自動車メーカーが進出するという段階的なプロセスを取った。その中で、現地のサプライヤーが鍛えられたのだ。

ところが、今の日本の製造業を見れば、自動車産業は国際競争力を維持しているものの、白物家電や黒物家電は中国や韓国の企業が台頭しており、日系企業の存在感は希薄だ。アフリカに進出するような余力があるとは思えず、自動車メーカーも製造業の基盤がない中でいきなり進出することは難しい。

日本の製造業の競争力が落ちている中、アフリカからASEAN型の支援を求められても、後に続く企業は多くはないのではないか。

デジタルを通じたアフリカ発展への貢献

それでは、日本はアフリカの発展に対して何ができるのだろうか。最優先に考えるべきは、デジタル分野における支援だろう。デジタル化によって、アフリカが抱える問題の解決につながる可能性があるからだ。例えば、アフリカは域内貿易が少ないという問題を抱えている。域内貿易比率を見ると、欧州68%、アジア58%、北米30%、中南米15%に対して、アフリカは12%に過ぎない。

アフリカ大陸におけるタイムリーでコスト効率の高い物資の移動の主な阻害要因の一つとして、国境や港湾における物資の国境通関の事務的負担が指摘されている。このような事務コストをデジタル化によって削減できれば、物流の効率性や生産性は向上する。加えて、世界経済フォーラムは、デジタル化による貿易コストの削減がアフリカの工業化を促進に寄与する可能性があると指摘している。また、アフリカでは労働人口の半分が農業に従事しているが、小規模農家が中心であるため生産性が低く、穀物は輸入に依存している。農作物を適正価格で売る販売網がないことも課題だ。近年は気候変動の影響も深刻で、アフリカの農家は気温の上昇や降雨量の変動など環境変化に脆弱である。この点についても、モバイルによるトラッキングやマーケティング、収穫マネジメントなどデジタル技術の導入により、品質と生産性、食料自給率の向上が期待される。デジタル活用による高付加価値な農産品の生産も、アフリカ域内貿易の活性化の文脈でアフリカ諸国が期待するものだ。

そのためには、サイバー犯罪やデータ・消費者保護、電子取引などの法整備に加えて、データセンターや通信網などのデジタルインフラやデジタル人材の育成が必要になる。だが、これらの分野でもアフリカは多くの課題を抱えており、支援を必要としている。

デジタルを活用した産業育成は、アフリカ型の経済発展において重要な役割を果たす可能性は高い。ただ、デジタル分野における支援は米欧中もこぞって打ち出している。そのため、デジタルだけで成立しない「サイバー×フィジカル」や「デジタル×サステナビリティ」といった方向性で支援すれば、日本らしい取り組みになるのではないか。日本が検討を進める「Society 5.0」は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を目指している。この考え方をアフリカ支援に応用するのは、一考の余地があろう。需要が高まる環境配慮型データセンターの整備などはその一例だ。

AfCFTAの発足で動き出す最後のフロンティア

2050年には世界の人口の4分の1を占めると予測されているアフリカ。2019年に発足したAfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)にも、エリトリアを除く54カ国が署名しており、2021年に一部運用が始まっている。約13億人の人口と約3.4兆米ドルのGDPを抱える単一の大陸市場創設が目標だ。長らく「最後のフロンティア」と称されてきたアフリカは、日本企業にとって看過すべき市場ではない。

ASEANの発展を後押しした日本の支援モデルはアフリカで再現することは難しいだろうが、経済や産業のデジタル化を通した支援には可能性がある。岸田首相がどのような“お土産”を渡そうとしているのかは定かではないが、アフリカは欧米や中国とは異なる関係を求めているはずだ。その期待に応えるような、戦略的な対応が望まれる。

株式会社オウルズコンサルティンググループ
プリンシパル
大久保 明日奈

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