児童労働において日本の立ち位置と課題解決の道筋を考える
2021年は国連が定める「児童労働撤廃国際年」。企業にとっては社会課題解決への関与が期待されている中、SDGsの目標8.7で定められているあらゆる形態の児童労働撤廃の達成目標年2025年も近づいてきた。ウェビナー朝日地球会議plus「日本が増やしている?世界の児童労働」にてオウルズコンサルティンググループCEOの羽生田慶介と特定非営利活動法人ACE代表の岩附由香氏が、児童労働撤廃という社会課題解決のために、日本の企業や消費者に何ができるか、何をすべきかについて語った。
対談の様子は2021年7月31日(土)までオンライン配信
【配信】朝日地球会議plus「日本が増やしている? 世界の児童労働」
【配信】朝日地球会議plus「日本が増やしている? 世界の児童労働」
フェアトレード製品市場規模はイギリスの20分の1
~日本企業の意識の遅れが顕~
「児童労働とは、子どもの権利を奪うような労働を指します」という岩附氏。世界の子ども10人に1人が児童労働をしている状況を改善するため、国連では2025年までの撤廃を目標として掲げている。児童労働は貧困世代が連鎖する深刻な問題のため、SDGsの他の目標よりも5年早く設定されている。
「日本は特に児童労働に対する課題意識が乏しいと見られています」というのは羽生田だ。最たる課題がフェアトレード認証製品の浸透の少なさだ。イギリスと比べ日本のフェアトレード製品市場規模は20分の1に満たない。
企業の変革を促す最も力強い存在が、消費者からのメッセージだ。しかしながら消費者の志向の変化を待っている時間的猶予はないのが日本の産業が置かれている状況だ。
サプライチェーンのグローバル化に伴い、企業の社会的責任は拡大していると羽生田は指摘する。「国内の自社工場で児童労働が起きていなければいいわけでなく、自分たちが調達している材料や関係会社の労働まで責任を持つ必要が出てきています。残念ながら日本は児童労働や強制労働が生産に関与した産品の輸入額が世界第二位で約5兆円に上ります」と話した。まさに「日本が児童労働を増やしている?」と疑いたくなる事実である。
海外では児童労働に加担している企業に対し、不買運動が行われ1兆円規模で売り上げが下がった事例もある。「日本の企業でも認識がだいぶ変わったと思います。相談を受け、研修をすることも増えています。企業が児童労働に加担しないビジネスを作って行くことが大切です」と岩附氏。
さらに羽生田は、日本企業が「ビジネスと人権」で低評価を受けている実態に警鐘を鳴らす。Corporate Human Right BenchmarkというNGOが行っている企業の人権対応スコアを見てみると日本企業は軒並み0点に近い低い点数だという。羽生田は「人権侵害を起こしているという以前に、人権デューディリジェンス※に取り組んでいません。自社のサプライチェーンに何が起こっているか把握すらできていない時点で、信頼できない企業と見なされます」と言い、企業として取り組みを急加速させる必要性があるという。
※企業が人権侵害のリスクを特定して、予防策や軽減策をとること。
※企業が人権侵害のリスクを特定して、予防策や軽減策をとること。
羽生田は企業がまず学ぶべき大方針として、国連が制定している「ビジネスと人権に関する指導原則」を挙げた。
この原則は「人権を保護する国家の義務」、「人権を尊重する企業の責任」、「救済へのアクセス」を3つの柱としている。この中の「企業の責任」に、人権デューディリジェンスが含まれる。
「すでに海外では人権デューディリジェンスが義務化されている国も増えていますが、日本では議論はされているものの義務化までには至っていません。グローバルで活動する日本企業は政府より先にこの対応を進めています」と羽生田は説明する。
「すでに海外では人権デューディリジェンスが義務化されている国も増えていますが、日本では議論はされているものの義務化までには至っていません。グローバルで活動する日本企業は政府より先にこの対応を進めています」と羽生田は説明する。
仕組みを変えることで「児童労働しない方がビジネスを強くする」世界へ
こういった状況を改善するためにまず法制度の整備が必要だとするのが、岩附氏と羽生田の共通見解だ。「特定の国で規制が厳しく、特定の国ではそうでないと、迂回貿易をすることで児童労働が解決されないということもあり得ます。国際的な流れを見ながら議論していくことが大切です」という羽生田。企業に対し法規制で適切なガイドをすることも国の責任であると岩附氏も説く。
加えて羽生田が主張するのが「経済合理性のリ・デザイン」という挑戦だ。オウルズコンサルティンググループでは政府、国際機関、非営利組織などと連携し、社会課題解決とビジネス強化の好循環を作る仕組みづくりである「経済合理性のリ・デザイン」を提案している。言い換えれば、児童労働をしないサプライチェーンのほうがビジネスとして得をする世界づくりだ。
多くのステークホルダーが関わって問題解決を行っている具体例に、児童労働をなくす仕組みが整備された政府の認定地域の制度「児童労働フリーゾーン」がある。ACEはインドとガーナで長年活動を行っており、地域ごとのコミュニティを支援することで児童労働解決の糸口が見えてきたという。
地域の中で続いていく支援プロジェクトの仕組み作りについて、ガーナの政府高官から共感を得ることができ、デロイト トーマツやオウルズコンサルティンググループのメンバーの力を借りながら完成させたのが「児童労働フリーゾーン」だった。2020年3月に制度が完成し、現在はJICAと共に試験的にガーナで運用をしている。
「この仕組みを展開し、世界ルールにしていきたい」と語るのは羽生田だ。SDGsで児童労働撤廃の目標達成年とされた2025年までに残された時間はわずか。動きをさらに加速させる必要がある。そこでまさに「経済合理性のリ・デザイン」の体現として仕掛けている国際ルールづくりがあるという。
「児童労働フリーゾーンで作られたカカオなどの産品に関しては、国際的に関税をゼロにする通商ルールを提案しています。人権に配慮した製品が、そうでないものよりも圧倒的なコスト競争力を持てる世界になるはずです」と羽生田は斬新なアプローチを説明した。
コスト削減のために途上国で児童労働を黙認している企業にとって、児童労働がむしろコストアップになるのであれば撤廃するインセンティブが働く。既にWTO(世界国際機関)との対話を始めているという。
実際に薬やIT製品など、世界になくてはならないものに関しては関税をゼロにする国際協定があることから、勝算はあると羽生田は意気を上げる。各国と連携を取りながら、世界の仕組みを変えていく児童労働解決へのチャレンジは正念場を迎える。
児童労働の現実を知り、自らのサプライチェーンにおける課題を確かめたあと、企業は何をすべきなのだろうか。「悪いことをしない」だけでなく、企業には「問題解決」にまで踏み込んでもらいたいと羽生田は語る。
「途上国の生産地を支援するためのプレミアム価格での取引など、企業には児童労働を積極的に解決するための方策がたくさんあります」と話し、岩附氏も「消費者のマインドも変わってきています」と今後の消費市場の変化に期待を寄せる。
「児童労働撤廃国際年」の今年、企業とNPO/NGOそして政府も一体となった社会課題解決の取り組みが大きく動き出している。
「児童労働撤廃国際年」の今年、企業とNPO/NGOそして政府も一体となった社会課題解決の取り組みが大きく動き出している。
株式会社オウルズコンサルティンググループ
代表取締役CEO
羽生田 慶介
代表取締役CEO
羽生田 慶介
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