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REPORTS レポート
2021年7月8日

【連載】繊維・ファッション業界の指針となるSDGs -SDGsとイノベーション-(2020年3月執筆記事)

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※2020年3月30日付の繊研新聞の記事を一部変更して掲載しています
近年世界的に認識が高まり、日本でも取り組む企業が増えている「SDGs(持続可能な開発目標)」。国際的な目標は、日本企業に課せられた「責任」であると当時に新たな「機会」と捉えることもできます。SDGsが繊維・ファッション業界にもたらす影響やビジネスチャンスについて解説します。
SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた潮流は、企業活動に新たな価値軸と、それに基づく進化をもたらしています。
従来は価値がないとみなされた研究や、既にコモディティー化した商品やサービスでも、SDGsの視点を取り入れればイノベーションの創出へとつながります。例えば、水産業が盛んで海洋汚染への意識が高いチリでは、起業家が「水に溶けるプラスチック袋」を開発しました。海洋に溶け込むため環境汚染につながらず、廃棄物問題も引き起こさないのが特長です。従来プラスチックの強みであったはずの「水に溶けない」特性を、環境保護の観点から180度転換させて新たな価値を生み出したのです。
一方、こうして生まれた新商材の拡販に向けて、併せて求められるのが「ルール形成」の視点です。SDGsのために生み出された新しい価値が高く評価される「モノサシ」がなければ、単なるユニークな新商品にとどまってしまいます。ルール形成は必ずしも法律を作ることではなく、企業間でも実現できます。最も早く効果が見込めるのは、顧客企業やさらにその顧客の調達ガイドラインに働きかけることです。例えば大手小売りチェーンが「今後、全店でこの商品棚には生分解性繊維を用いた衣料しか置かない」と明言したら、それまでニッチな環境配慮商品と見なされていた商品群が一夜にして大きな市場を獲得するでしょう。
繊維・アパレル業界でも、SDGsに向けた取り組みによるイノベーションが具体化しています。サーキュラーエコノミー(循環型経済)の国際ルール化が進む中、丸紅は古着や縫製工場で発生する端材を回収して繊維原料に再生する事業を米国ベンチャー企業と開始しました。アーバンリサーチは、SDGs基本方針の中で「クロージング・イノベーション:衣料資源の有効活用」を掲げ、サステイナブル(持続可能)な商品の開発に注力しています。
企業の社会貢献の考え方はかつてCSR(企業の社会的責任)が主流でしたが、CSRはあくまで「責任」を果たす活動であり、利益や見返りを求めるものではありません。そこで近年、「CSV(共有価値の創造)経営」の考え方が日本企業にも広まっています。
CSVは事業活動を通じて収益向上を目指しながら社会課題を解決し、社会的価値と経済的価値の創出を両立させようとするものです。
GDP(国内総生産)やQCD(品質・コスト・納期)など、旧来型のビジネス指標では日本の存在感が下降の一途をたどる中、企業には抜本的な価値軸の転換が求められています。SDGsの浸透がCSV経営を更に加速させることで、多方面でのイノベーション創出が期待されています。SDGsへの貢献や新たな社会課題への対応を通じて商品・サービスをどう進化させられるか、各社の力量が問われ始めていると言えるでしょう。

繊研新聞(2020年3月30日付)

繊研プラス:https://senken.co.jp

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矢守 亜夕美
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