※2020年2月3日付の繊研新聞の記事を一部変更して掲載しています
近年世界的に認識が高まり、日本でも取り組む企業が増えている「SDGs(持続可能な開発目標)」。国際的な目標は、日本企業に課せられた「責任」であると当時に新たな「機会」と捉えることもできます。SDGsが繊維・ファッション業界にもたらす影響やビジネスチャンスについて解説します。
SDGs(持続可能な開発目標) は既にビジネスを大きく変化させています。
まず企業の貸借対照表(B/S) への影響が先行しました。環境・社会・ガバナンス面を考慮した「ESG投資」が、SDGsを背景に世界で急速に増加しています。世界のSDGs投資残高は、2016年からの2年間で34%増加し、30兆㌦を超えて運用資産額全体の約3割を占めました。日本でも同期間で3.4%から18.3%まで拡大しましたが、依然として欧州より大きく劣る水準です(出所=GSIA)。
これは欧州と比較してESG投資の収益率が低いことが背景とされます。日本ではESG観点では高評価の企業も収益性が低く、株価が伸び悩んでいます。SDGsが本社の所掌であるB/Sへの影響だけにとどまっては革新が起きません。事業部の関心である損益計算書(P/L)の課題として捉え、運動エネルギーを上げていく必要があります。
SDGsによるビジネス機会の拡大こそが、P/Lへの影響として注目すべき最たる点です。SDGsがもたらすイノベーションは、飽和したコモディティー市場を成長に導く起爆剤です。SDGsの169のターゲット本文を細かく分析してください。各目標に貢献できる意外なビジネス機会が見つかるはずです。
例えばマクロ政策にも見える「目標8:働きがいも経済成長も」は、目指す要素に障がい者雇用や労働安全なども掲げており、車椅子使用者向けスーツの製造や、従業員の健康を守る体調監視機能付き作業着など、既に市場でニーズをつかみつつあるビジネスが多く含まれます。SDGsビジネスの17年の世界の市場規模は約2449兆円。
この機会に気づくコツは、「0から1」の新ビジネスだと思い込まないことです。自社が実は既に持っている「SDGs商材」を見つけ、その設計や提供方法を再検討して「1から100」へと発展させていくことが重要です。一方で、SDGsのP/L影響をビジネスリスクとして捉えることも必要です。
企業がサプライチェーン全体で生み出すSDGsへの負の影響を止めるべく、社会的な圧力が強まっています。海外大手アパレルブランドは、サプライチェーン上の児童労働発覚による不買運動で1兆円を超える売り上げを失いました。(デロイト試算) 下請け企業は大手ブランドが採用し始めている環境や人権に配慮した調達ガイドラインに対応できなければ、突然取引を失うリスクがあります。
例えば「人権デューディリジェンス未実施の繊維素材メーカーとは取引を停止する」のような調達ルールが今後、増える可能性があります。
SDGsに関連する国際ルールが次々に発効しています。変化に先んじた行動で、SDGs貢献と業績を両立させることが期待されます。
SDGsに関連する国際ルールが次々に発効しています。変化に先んじた行動で、SDGs貢献と業績を両立させることが期待されます。
繊研新聞(2020年2月3日付)
株式会社オウルズコンサルティンググループ
マネジャー
潮崎 真惟子
マネジャー
潮崎 真惟子