1. IPEFの概要
IPEF(The Indo-Pacific Economic Framework,インド太平洋経済枠組み)は、2021 年 10 月末に開催されたEAS(East Asia Summit, 東アジア首脳会議)において米国のジョー・バイデン大統領がインド太平洋地域の多国間の経済枠組みの構想に言及したことから始まりました。その後、2022 年 9 月に米国で IPEF 閣僚会合が開催され、正式な交渉開始が宣言されました。この時点では、米国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、 ASEAN7 か国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ)、インド及びフィジーの 14 か国がIPEFの交渉に参加しています。
2. IPEFの4本柱
IPEFは、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)では目玉になっている関税の削減を含まない国際的な枠組みで、「貿易」「サプライチェーン」「クリーン経済」「公正な経済」の4本柱で構成されています。IPEF参加国は4本柱のうち、参加する柱を選択できる枠組みになっており、インドは「貿易」の柱には参加していません(2023年6月時点)。
米国では、外国と関税削減を含む通商の取り決めを行う際には議会の承認を得る必要がありますが、IPEFは、米国議会の承認が必要のない内容のみを定める方針です。(注:ただし、一部の国会議員はIPEFにも議会承認が必要だと主張しています。)
米国のバイデン政権は、2021年6月に重要製品に関するサプライチェーン強化に向けた報告書を公表しました[1]。このなかで、重要製品(半導体、大容量バッテリー、重要鉱物、医薬品)のサプライチェーン強化の方策を掲げています。また、これら製品に対して米国のサプライチェーンが脆弱になった要因のひとつとして、同盟国やパートナー国との連携が限定的だったことを挙げています。米国には、IPEFを通じて自国の脆弱なサプライチェーンを補う意図があると想定されます。これに加えて、バイデン政権は「労働者中心の通商政策」を掲げています。IPEFを通じて、参加国の労働環境を改善することも視野に入れています。
他方で、IPEF参加国のうち、特に途上国にとっては、大市場である米国の「関税削減」というメリットが含まれない枠組みになるため、米国の利益を一方的に追及することでは合意が得られません。参加国全体にメリットがある枠組みになるよう、交渉が進められています。
[1] The White House. 2021.100-Day Reviews under Executive Order 14017